残念に思って、負け方の姫君は、

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桜ゆゑ風に心の騒ぐかな思ひぐまなき花と見る見る
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 こんな歌を作った。そのほうにいる宰相の君が、

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咲くと見てかつは散りぬる花なれば負くるを深き怨《うら》みともせず
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 と慰める。右の姫君、

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風に散ることは世の常枝ながらうつろふ花をただにしも見じ
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 右の女房の大輔《たゆう》、

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心ありて池の汀《みぎは》に落つる花|泡《あわ》となりてもわが方に寄れ
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 勝ったほうの童女が庭の花の下へ降りて行って、花をたくさん集めて持って来た。

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大空の風に散れども桜花おのがものぞと掻《か》き集《つ》めて見る
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 左の童女の馴君《なれき》がそれに答えて、

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「桜花|匂《にほ》ひあまたに散らさじとおほふばかりの袖《そで》はありやは
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 気が狭いというものですね」
 などと悪く
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