としても、さしあたっては何の引け目もなしにどこへでもお出しになっただろうがね」
と尚侍《ないしのかみ》が言いだしたために、めいった空気に満ちてきたのもぜひないことである。
中将などが立って行ったあとで、姫君たちは打ちさしておいた碁をまた打ちにかかった。昔から争っていた桜の木を賭《か》けにして、
「三度打つ中で、二度勝った人の桜にしましょう」
などと戯れに言い合っていた。
暗くなったので勝負を縁側に近い所へ出てしていた。御簾《みす》を巻き上げて、双方の女房も固唾《かたず》をのんで碁盤の上を見守っている。ちょうどこの時にいつもの蔵人《くろうど》少将は侍従の所へ来たのであったが、侍従は兄たちといっしょに外へ出たあとであったから、人気《ひとけ》も少なく静かな邸《やしき》の中を少将は一人で歩いていたが、廊《わたどの》の戸のあいた所が目について、静かにそこへ寄って行って、のぞいて見ると、向こうの座敷では姫君たちが碁の勝負をしていた。こんな所を見ることのできたことは、仏の出現される前へ来合わせたと同じほどな幸福感を少将に与えた。夕明りも霞《かす》んだ日のことでさやかには物を見せないのであるが
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