た人のような風采《ふうさい》はお持ちになりますが、光源氏の片端の片端にもお当たりにならないように私の思うのは、すばらしいと子供心にお見上げしたころの深い印象によるものなのかもしれません。われわれでさえ院をお思い出しするとお別れしたことは慰みようもない悲しみになるのですから、家族の方がたでお死に別れをしたあとに生き残らねばならなかった人たちは不幸な宿命を負っているのだという気がします」
 こんなことを女王に語って、大納言は深く身にしむふうでしおれかえってしまった。この気持ちが促しもして大納言は、梅の枝を折らせるとすぐに若君を御所へ上がらせることにした。
「しかたがない。阿難《あなん》が身体《からだ》から光を放った時に、釈迦《しゃか》がもう一度出現されたと解釈した生《なま》賢い僧があったということだから、院を悲しむ心の慰めにはせめて匂宮へでも消息を奉ることだ」
 と言って、

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心ありて風の匂《にほ》はす園の梅にまづ鶯《うぐひす》の訪《と》はずやあるべき
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 この歌を紅の紙に、青年らしい書きようにしたためたのを、若君の懐紙《ふところがみ》の中
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