、若君は東宮へ伺うこともできずに兵部卿の宮のお曹司《ぞうし》へ泊まることにした。
花も羞恥《しゅうち》を感じるであろうと思われるにおいの高い宮のおそば近くに寝《やす》んでいることを、若君は子供心に非常にうれしく思っていた。
「この花の持ち主の方はなぜ東宮へお上がりにならなかったのかね」
「よく存じませんけれど、宮仕えよりも普通の結婚を父母は望んでいるのではございませんでしょうか」
などと若君はお答えしていた。大納言の希望は自身の娘のほうであることも宮は他から聞き込んでおいでになるのであるが、憧憬《あこがれ》をお持ちになるのは東の女王《にょおう》のほうであったから、花の返事も明瞭《めいりょう》にあそばしたくないお気持ちがあって、翌朝若君の帰る時に、感激のないただ事のようにして、
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花の香に誘はれぬべき身なりせば花のたよりを過ぐさましやは
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こんな歌をおことづてになるのであった。
「大人《おとな》などには話さないで、そっと女王さんに私の言ったことを取り次ぐのだよ」
と返す返す宮は仰せられた。若君も東の姉君を他の姉よりも愛しているので
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