と言った。急いだからであろうが平凡な歌である。
 一条ではまだ前夜のまま宮が内蔵《くら》からお出にならないために、女房たちが、
「こんなふうにいつまでもしておいでになりましては、若々しい、もののおわかりにならぬ方だという評判も立ちましょうから、平生のお座敷へお帰りになりまして、そちらでお心持ちを殿様の御了解なさいますようにお話しあそばせばよろしいではございませんか」
 と言うのを、もっともなことに宮もお思いになるのであるが、世間でこれからの御自身がお受けになる譏《そし》りもつらく、過去のあるころにその人に好意を持っておいでになった御自身をさえ恨めしく、そんなことから母君を失ったとお考えになると最もいとわしくて、この晩もお逢《あ》いにはならなかった。
「あまりに、御冷酷過ぎる」
 こんな気持ちをいろいろに言って取り次がせて夕霧はいた。女房たちも同情をせずにおられないのであった。
「少しでも普通の人らしい気分が帰ってくる時まで、忘れずにいてくだすったならとおっしゃるのでございます。母君の喪中だけはほかのことをいっさい思わずに謹慎して暮らしたいという思召しが濃厚でおありあそばす一方では
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