ある。女でいてこの人を愛せずにおられるはずもなく、鏡を見てみずから慢心をせぬわけもなかろうとわが子ながらもお思いになる院でおありになった。
昼近くなって大将は三条の家へ帰ったのであった。家へはいるともうすぐに何人もの同じほどの子供たちがそばへまつわりに来た。夫人は帳台の中に寝ていた。大将がそこへ行っても目も見合わせようとしない。恨めしいのであろう、もっともであると夕霧も知っているのであるが、気にとめぬふうをして夫人の顔の上にかかった夜着の端をのけると、
「ここをどこと思っておいでになったのですか。私はもう死んでしまいましたよ。平生から私のことを鬼だとお言いになりますから、いっそほんとうの鬼になろうと思って」
と夫人は言った。
「あなたの気持ちは鬼以上だけれど、あなたの顔はそうでないから私はきらいになれないだろう」
何一つやましいこともないようにこんな冗談《じょうだん》を言う良人《おっと》を夫人は不快に思って、
「美しい恋をする人たちの中に混じって生きていられない私ですから、どんな所でも行ってしまいます、もうあなたの念頭になぞ置かれたくない。長くいっしょにいたことすら後悔しているの
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