ですから」
 と言って、起き上がった夫人の愛嬌《あいきょう》のある顔が真赤《まっか》になっていて一種の魅力をもっていた。
「子供らしく始終腹をたてる鬼だから、もう見なれて怖《おそ》ろしい気はしなくなった。少し恐ろしいところを添えたいね」
 と良人が冗談事《じょうだんごと》にしてしまおうとするのを、
「何を言っているのですか。おとなしく死んでおしまいなさいよ。私も死にますよ。いろんなことを聞いているとますますあなたがいやになりますよ。置いて死ねばまたどんなことをなさるかと気がかりだから」
 と腹をたてるのであるが、ますます愛嬌の出てくる夫人を夕霧は笑顔《えがお》で見ながら、
「近くで見るのがいやになっても、私の噂を無関心には聞かないでしょう。あなたはどんなに二人の宿縁の深いかを知らすために、私を殺して自分も死のうというのですね。二人の葬儀をいっしょにしてもらうというような約束は前にしてあったのだからね」
 大将はまだ夫人の嫉妬《しっと》に取り合わないふうをして、いろいろにすかしたり、なだめたりしていると、若々しく単純な性質の夫人であるから、良人の言葉はいいかげんな言葉であると思いながらも
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