癖はお忘れになったように、少しの恋愛事件をお起こしになるとたいへんなことのようにお訓《さと》しになろうとしたり、蔭《かげ》でも御心配になったりするのを拝見しますと、賢がる人が自己のことを棚《たな》に上げているということのような気がしてなりませんよ」
 こう花散里夫人が言った。
「そうですよ。始終品行のことで教訓を受けますよ。親の言葉がなくても私は浮気《うわき》なことなどをする男でもないのに」
 大将は非常におかしいと思うふうであった。
 院のお居間へも来た大将を御覧になって、院は新事実を知っておいでになったが、知った顔を見せる必要はないとしておいでになって、ただ顔をながめておいでになるのであった。それは非常に美しくて今が男の美の盛りのような夕霧であった。今問題になっているような恋愛事件をこの人が起こしても、だれも当然のことと認めてしまうに違いないと思召された。鬼神でも罪を許すであろうほどな鮮明な美貌《びぼう》からは若い光と匂《にお》いが散りこぼれるようである。感情にまだ多少の欠陥のある青年者でもなく、どこも皆完全に発達したきれいな貴人であると院は御覧になって、問題の起こるのももっともで
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