ですね。世間にはたくさんあることですが、三条の姫君がどう思っていらっしゃるだろうかとおかわいそうですよ。今まであんなに幸福だったのですから」
「可憐《かれん》な人のようにお言いになる姫君ですね。がさつな鬼のような女ですよ」
 と言って、また、
「決してそのほうもおろそかになどはいたしませんよ。失礼ですがあなた様御自身の御境遇から御推察なすってください。穏やかにだれへも好意を持って暮らすのが最後の勝利を得る道ではございませんか。嫉妬《しっと》深いやかましく言う女に対しては、当座こそ面倒だと思ってこちらも慎むことになるでしょうが、永久にそうしていられるものではありませんから、ほかに対象を作る日になると、いっそうかれはやかましくなり、こちらは倦怠《けんたい》と反感をその女から覚えるだけになります。そうしたことで、こちらの南の女王の態度といい、あなた様の善良さといい、皆手本にすべきものだと私は信じております」
 と継母をほめると、夫人は笑って、
「物の例にお引きになればなるほど、私が愛されていない妻であることが明瞭《めいりょう》になりますよ。それにしましてもおかしいことは、院は御自身の多情なお癖はお忘れになったように、少しの恋愛事件をお起こしになるとたいへんなことのようにお訓《さと》しになろうとしたり、蔭《かげ》でも御心配になったりするのを拝見しますと、賢がる人が自己のことを棚《たな》に上げているということのような気がしてなりませんよ」
 こう花散里夫人が言った。
「そうですよ。始終品行のことで教訓を受けますよ。親の言葉がなくても私は浮気《うわき》なことなどをする男でもないのに」
 大将は非常におかしいと思うふうであった。
 院のお居間へも来た大将を御覧になって、院は新事実を知っておいでになったが、知った顔を見せる必要はないとしておいでになって、ただ顔をながめておいでになるのであった。それは非常に美しくて今が男の美の盛りのような夕霧であった。今問題になっているような恋愛事件をこの人が起こしても、だれも当然のことと認めてしまうに違いないと思召された。鬼神でも罪を許すであろうほどな鮮明な美貌《びぼう》からは若い光と匂《にお》いが散りこぼれるようである。感情にまだ多少の欠陥のある青年者でもなく、どこも皆完全に発達したきれいな貴人であると院は御覧になって、問題の起こるのももっともで
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