やや軽くなったふうであった容体がまた非常に険悪なものになってきた。かえって宮御自身は御息所の思い悩む点を何ともお思いになるわけはなくて、ただ異性の他人をあれほどまでも近づかせたことが残念に思われる自分であって、彼の愛の厚薄は念頭にも置いていないにもかかわらず、それを一大事として母君が煩悶していると、恥ずかしくも苦しくも思召されて、母君ながらそのことはお話しになることもできずに、ただ平生よりも羞恥《しゅうち》を多くお感じになるふうの見える宮を、御息所は心苦しく思い、この上にまた多くの苦労をお積みにならねばなるまいと、悲しさに胸のふさがる思いをした。
「今さらお小言《おこごと》らしいことは申したくないのでございますが、それも運命とは申しながら、異性に対する御認識が不足していましたために、人がどう批難をいたすかしれませんことが起こってしまいましたのですよ。それは取り返されることではございませんが、これからはそうしたことによく御注意をなさいませ。つまらぬ私でございますが、今までは御保護の役を勤めましたが、もうあなた様はいろいろな御経験をお積みになりまして、お一人立ちにおなりになりましても充分な
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