物怪《もののけ》が油断をさせようと一時的に軽快ならしめていたのかと女房たちは騒ぎだした。効験のいちじるしい僧が皆呼び集められて、病室は混雑していた。あちらへお帰りになるように女房たちはお勧めするのであるが、宮は御自身をお悲しみになる心から、いっしょに死のうと思召して母君からお離れにならないのであった。
 夕霧はこの日の昼ごろから三条の家にいた。今夜また小野の山荘へ行くことは、まだない事実をあることらしく人に思わせるだけで、自分のためにはよい結果をもたらすことでないと行きたい心をしいておさえることに努力していたが、これまで恋しくお思いしていたことは物の数でもないほどに昨日からにわかに千倍した恋に苦しむ大将であった。夫人は山荘の昨日の訪問の様子をほかから聞き出して不快がっていたのであるが、知らぬ顔をして子供の相手をしながら自身の昼の居間のほうで横になっていた。
 八時過ぎに小野の山荘で書いた御息所の返事は大将の所へ持って来られたのであるが、大病人の書いた鳥の跡は一度見たのではわかりにくい。夕霧が灯《ひ》を近くへ持って来させてさらに丁寧に読もうとしている時に、あちらにいたのであるが夫人はそれ
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