を見つけて、そっと寄って来て後ろから奪ってしまった。夕霧はあきれて、
「どうするのですか。けしからんじゃありませんか。六条の東のお母様のお手紙ですよ。今朝から風邪《かぜ》でお悪かったから、院の御殿へ伺ったままでこちらへ帰って来て、もう一度お訪《たず》ねすることをしなかったのがお気の毒だったから、御様子を聞く手紙を持たせてやったのじゃありませんか。御覧なさい、恋の手紙というような書き方ですか、これは。はしたない下品なことをするじゃありませんか。年月に添って私を侮《あなど》ることがひどくなるのは困ったものだ。女房たちがどう思うかを少しも考慮に入れないのですね」
 と言って歎息《たんそく》はしたが、惜しそうにしてしいて夫人の手から取り上げることはしなかったから、雲井《くもい》の雁《かり》夫人もさすがにこの場で読むこともできずにじっと持っていた。
「年月に添って侮るなどとは、あなた御自身がそうでいらっしゃるから、私のことまでも臆測《おくそく》なさるのよ」
 夫人は良人《おっと》があまりにまじめな顔をしているのに気おくれがして、若々しく甘えてみせた。夕霧は笑って、
「それはどちらのことでもいい。
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