が、ただ一人の妻として形式的には鄭重《ていちょう》をきわめたお取り扱いを故人がしたことで、強みのある気がして慰められはした。それでも心から御息所は宮が御幸福におなりになったとは思わなかった。それさえもそうであったのに、今度のことは何たる悲しいことであろう。太政大臣家での取り沙汰《ざた》は想像するだにいやであると御息所は思うのである。なおどう大将が言ってくるかと見たい心から、非常に苦しい身体《からだ》の調子であるのを忍んで、目を無理にあけるようにもして書いた力のない、鳥の足跡のような字で返事をするのであった。
[#ここから1字下げ]
もう私はなおる見込みもなくなりました。宮様はただ今こちらへ見舞いに来ておいでになるのでございまして、お勧めをしてみましたが、めいったふうになっておいでになりまして、お返事もお書けにならないようでございますから、私が見かねまして、
[#ここから2字下げ]
女郎花《をみなへし》萎《しを》るる野辺をいづくとて一夜ばかりの宿を借りけん
[#ここで字下げ終わり]
こう書きさしただけで紙を巻いて出した。そのまままた病床に横たわった御息所ははなはだしく苦しみだした。
前へ
次へ
全56ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング