私の病気を見舞いに来てくださいましたそうですから、恐縮して私は聞いておりましたよ」
 御息所《みやすどころ》の答えはこうであった。
「とんでもない。私に隠しだてをなさる必要はない。今朝《けさ》後夜《ごや》の勤めにこちらへ参った時に、あちらの西の妻戸からりっぱな若い方が出ておいでになったのを、霧が深くて私にはよく顔が見えませんじゃったが、弟子《でし》どもは左大将が帰って行かれるのじゃ、昨夜《ゆうべ》も車をお返しになってお泊まりになったのを見たと口々に言っておりました。そうだろうと私もうなずかれました。よい匂《にお》いのする方じゃからな。しかしこの御関係は結構なことじゃありませんなあ。あちらがりっぱな方であることに異議はないが、しかしどうも賛成ができん。子供でいられたころからあの方の御|祈祷《きとう》は御祖母の宮様から私が命ぜられていたものじゃから、今も何かといっては私に頼まれるのですがな、そのことはよくありませんな。奥さんの勢力が強くてしかたがない。盛んな一族が背景になっていますからな。お子さんはもう七、八人もできているでしょう。こちらの宮様がそれにお勝ちになることはできないでしょうな。
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