小さいお美しい姿をうつ伏せにしておいでになる。
「若君をここへ置かずに、どちらか遠い部屋《へや》へ抱いて行くがよい」
とまた院は女房へ注意をあそばされた。北側の座敷との間も今日は襖子《からかみ》がはずされて御簾《みす》仕切りにしてあったが、そちらの室《へや》へ女房たちを皆お入れになって、院は尼宮に今日の儀式についての心得をお教えになるのであったが、その方を可憐《かれん》にばかりお思われになった。昔の鴛鴦《えんおう》の夢の跡の仏の御座《みざ》になっている帳台が御簾越しにながめられるのも院を物悲しくおさせすることであった。
「こんな儀式をあなたのためにさせる日があろうなどとは予想もしなかったことですよ。これはこれとして来世の蓮《はす》の花の上では睦《むつ》まじく暮らそうと期していてください」
と言って院はお泣きになった。
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蓮葉《はちすば》を同じうてなと契りおきて露の分かるる今日《けふ》ぞ悲しき
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硯《すずり》に筆をぬらして、香染めの宮の扇へお書きになった。宮が横へ、
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隔てなく蓮《はちす》の宿をちぎりても君が
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