心やすまじとすらん
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 こうお書きになると、
「そんなに私が信用していただけないのだろうか」
 笑いながら院は言っておいでになるのであるが身にしむものがある御様子であった。
 例のことであるが親王がたも多く参会された。六条院の夫人たちから仏前へささげられた物の数も多かった。七僧の法服とか、この法事についての重だった布施は皆紫夫人が調製させたものである。綾地《あやじ》の法服で、袈裟《けさ》の縫い目までが並み並みの物でないことを言って当時の僧がほめたそうである。こんなこともむずかしいものらしい。
 講師が宮の御|遁世《とんせい》を讃美《さんび》して、この世におけるすぐれた栄華をなお盛りの日にお捨てになり、永久の縁を仏にお結びになったということを、豊かな学才のある僧が美辞麗句をもって言い続けるのに感動して萎《しお》たれる人が多かった。今日のはただ御念誦堂《ごねんじゅどう》開きとしてお催しになった法会《ほうえ》であったが、宮中からも御寺《みてら》の法皇からもお使いがあって、御誦経の布施などが下されてにわかに派手《はで》なものになった。初めの設けは簡単にしたように院は思
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