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御病気を心苦しく聞いていながらも、私からお尋ねなどのできないことは推察ができるでしょう。「残るだろう」とお言いになりますが、

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立ち添ひて消えやしなましうきことを思ひ乱るる煙くらべに

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私はもう長く生きてはいないでしょう。
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 内容はこんなのであった。衛門督は宮のお手紙を非常にありがたく思った。
「このお言葉だけがこの世にいるうちのもっともうれしいことになるだろう。はかない私だね」
 いっそう強く督は泣き入って、またこちらからのお返事を、横になりながら休み休み書いた。鳥の足跡のような字ができる。

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「行くへなき空の煙となりぬとも思ふあたりを立ちは離れじ

とりわけ夕方には空をおながめください。人目をおはばかりになりますことも、対象が実在のものでなくなるのですからいいわけでしょう。そうしてせめて永久に私をお忘れにならぬようにしてください」
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 などと乱れ書きにした。病苦に堪えられなくなって、
「ではもういいから、あまりふけないうちに帰って行っ
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