た魂魄が六条院をさまよっているようなことに気がついた時には君、まじないをしてくれたまえ」
 などと、衰弱して殻《から》のようになった姿で、泣きも笑いもして衛門督《えもんのかみ》は語るのであった。宮が非常にお恥じになっている御様子、物思いばかりをしておいでになるということも小侍従は告げた。自身が今|冗談《じょうだん》で言い出したことではあるが、その宮をおいたわしく、恋しく思う魂魄はそちらへ行くかもしれぬというような気も衛門督はしていっそう思い乱れた。
「もう宮様のお話はいっさいすまい。不幸で短命な生涯《しょうがい》に続いて、その執着が残るために未来をまた台なしにすると思うのがつらい。心苦しいあのことを無事にお済ましになったとだけはせめて聞いて死にたい気もするがね、私たちを繋《つな》ぎ合わせた目に見えぬものを私が夢で見た話なども申し上げることができないままになるのが苦痛だよ」
 と言って深く督《かみ》の悲しむ様子を見ていては、小侍従も堪えきれずなって泣きだすと、その人もまた泣く。蝋燭《ろうそく》をともさせてお返事を読むのであったが、それは今も弱々しいはかない筆の跡で、美しくは書かれてあった
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