と宮へ申し上げた。
「私だってもういつ死ぬかわからないほど命に自信がなくなっているのだから、そうした気の毒な容体でいる人としてだけに同情もされるけれど、私はもう苦しめられることに懲りているのだから、返事などをしてかかりあいになるのは非常にいやに思われる」
こうお言いになって、宮は書こうとあそばさない。自重心がおありになるのではなくて、これは院のお心に御自身のあそばされた過失の影がおりおりさして、悩ましい御様子をお見せになることもあるのを、恐ろしく苦しいことと深く思っておいでになるからである。小侍従はそれでも硯《すずり》などを持って来て責めたてるので、しぶしぶお書きになった宮のお手紙を持って、宵闇《よいやみ》に紛れてそっと小侍従は衛門督《えもんのかみ》の所へ行った。
大臣は大和《やまと》の葛城《かつらぎ》山から呼んだ上手《じょうず》な評判のある修験者にこの晩は督《かみ》の加持《かじ》をさせようとしていた。祈祷《きとう》や読経《どきょう》の声も騒がしく病室へはいって来た。人が勧めるままに、世の中へ出ることをしない高僧などで、世間からもまたあまり知られていないような人も、遠い土地へ息子《
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