なかったが、自分を恨めしくお思いになったこともあるのではないかとお気がつくと、かわいそうでならない気があそばされたのであった。いろいろと宮の御意志を翻《ひるが》えさせようと院が言葉を尽くしておいでになるうちに夜明け方になった。御寺《みてら》へお帰りになるのが明るくなってからでは見苦しいと法皇はお急ぎになって、祈祷《きとう》のために侍している僧の中から尊敬してよい人格者ばかりをお選びになり、産室《うぶや》へお呼びになって、宮のお髪《ぐし》を切ることをお命じになった。若い盛りの美しいお髪《ぐし》を切って仏の戒《かい》をお受けになる光景は悲しいものであった。残念に思召して六条院は非常にお泣きになった。また法皇におかせられては、御子の中でもとりわけお大事に思召された内親王で、だれよりも幸福な生涯《しょうがい》を得させたいとお思いあそばされた方を、未来の世は別としてこの世でははかない姿にお変えさせになったことで萎《しお》れておいでになって、
「たとえこうおなりになっても、健康が回復すればそれを幸福にお思いになって、できれば念誦《ねんず》だけでもよくお唱えしているようになさい」
 とお言いになった
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