院は、まだ暗いうちに六条院をお去りになることにあそばされた。
 宮は今もなおお命がおぼつかない御様子で、はかばかしく御父法皇を目送あそばすこともおできにならず、ものもお言われにならなかった。
「夢を見ておりますようなことが起こりまして、心が混乱しております際で、昔の御厚情をまたお見せくださいました御幸《みゆき》に感謝の意もまだ表してお目にかけることができませんような不都合さも、また私が伺ってお詫《わ》びすることにいたしましょう」
 と六条院は御|挨拶《あいさつ》をあそばされた。そしてこの院の役人たちを御寺へお見送りにお出しになるのであった。
「もう今日か明日かに終わるように自分の命の危険さが思われた際に、あとに残して保護者もなく寂しくこの世を渡らせることが憐《あわ》れまれてならぬ時に、御本意ではなかったでしょうが、あなたへお託しさせていただいて、今までは安心していたのですが、万一かれの命の助かることがありますれば、もう普通の人ではなくなりました者が、人出入りの多い宮殿にいますことは似合わしく思われませんし、郊外の寂しい所へ住ませるのもさすがにまた心細く思うことでしょうから、その点をあな
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