馴《な》つきの悪い猫も衛門督にはよく馴れて、どうかすると着物の裾《すそ》へまつわりに来たり、身体《からだ》をこの人に寄せて眠りに来たりするようになって、衛門督はこの猫を心からかわいがるようになった。物思いをしながら顔をながめ入っている横で、にょうにょう[#「にょうにょう」に傍点]とかわいい声で鳴くのを撫《な》でながら、愛におごる小さき者よと衛門督はほほえまれた。

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「恋ひわぶる人の形見と手ならせば汝《なれ》よ何とて鳴く音《ね》なるらん
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 これも前生の約束なんだろうか」
 顔を見ながらこう言うと、いよいよ猫は愛らしく鳴くのを懐中《ふところ》に入れて衛門督は物思いをしていた。女房などは、
「おかしいことですね。にわかに猫を御|寵愛《ちょうあい》されるではありませんか。ああしたものには無関心だった方がね」
 と不審がってささやくのであった。東宮からお取りもどしの仰せがあって、衛門督はお返しをしないのである。お預かりのものを取り込んで自身の友にしていた。
 左大将夫人の玉鬘《たまかずら》の尚侍《ないしのかみ》は真実の兄弟に対するよりも右大将に
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