別にお愛しになってお手もとでお使いになった衛門督であって、院が山の寺へおはいりになってからは東宮へもよく伺って敬意を表していた。琴など御教授をしながら、衛門督は、
「お猫がまたたくさんまいりましたね。どれでしょう、私の知人は」
と言いながらその猫を見つけた。非常に愛らしく思われて衛門督は手でなでていた。宮は、
「実際|容貌《きりょう》のよい猫だね。けれど私には馴《な》つかないよ。人見知りをする猫なのだね。しかし、これまで私の飼っている猫だってたいしてこれには劣っていないよ」
とこの猫のことを仰せられた。
「猫は人を好ききらいなどあまりせぬものでございますが、しかし賢い猫にはそんな知恵があるかもしれません」
などと衛門督は申して、また、
「これ以上のがおそばに幾つもいるのでございましたら、これはしばらく私にお預からせください」
こんなお願いをした。心の中では愚かしい行為をするものであるという気もしているのである。
結局|衛門督《えもんのかみ》は望みどおりに女三の宮の猫を得ることができて、夜などもそばへ寝させた。夜が明けると猫を愛撫《あいぶ》するのに時を費やす衛門督であった。人|
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