苦労のない立場を得られることだけはできると私も見ておけます。そのほかの人たちは成り行きのままで、私といっしょに出家をしてしまってももういいほどの年齢《とし》になっているとこのごろでは思われます。院ももう長くはおいでにならないでしょう。以前よりいっそうお身体《からだ》が弱くおなりになって、心細い御様子でいらっしゃるとのことですから、今になって悪い名などをお耳に入れて御心配をかけてはいけませんよ。この世は何でもありませんが、来世のお妨げになることをしてはあなたの罪も大きくなりますよ」
そのことと露骨にお言いにならないのであるが、しみじみとお説きになるために、宮は涙ばかりがこぼれて、知らず知らずめいり込んでおしまいになったのを御覧になる院も、お泣きになって、
「他の人がこうしたことを言うのを、聞く必要もない老人《としより》の理窟《りくつ》だと思った私だが、いつのまにかそれを言うほうの人に私がなっている。よけいなことを言う老人だとお思いになっていっそういやになるでしょう」
ともお言いになって、硯《すずり》を引き寄せて御自身で墨をおすりになり、紙をお選《よ》りになりなどして、お返事を書かせよ
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