たが、この人以上に身に沁《し》んで恋しく思われた紫の女王《にょおう》と、せめてこれほどの接触が許されてほのかな声でも聞きうる機会をどんな時にとらえることができるであろうと、その困難さを思って心を苦しめながら中将は南の町へ来た。源氏はすぐ出て来たので、中将は聞いて来た返事をした。
「御所へ上がるのを、やっとしぶしぶ承諾した形なのだから困る。兵部卿《ひょうぶきょう》の宮などが求婚者で、深刻な情熱の盛られたお手紙が送られていて、そのほうへ心が惹《ひ》かれるのではなかろうかと思うと気の毒な気にもなる。しかし大原野の行幸の時にお上《かみ》を拝見して、お美しいと思った様子だったのだからね。若い女は一目でもお顔を拝見すれば宮仕えのできる者は皆出ないではいられまいと思って、最初に私の計らったことなのだが」
などと源氏は言う。
「それにしましてもあの方はどんなふうになられるのがいちばん適したことでしょう。御所には中宮《ちゅうぐう》が特殊な尊貴な存在でいらっしゃいますし、また弘徽殿《こきでん》の女御《にょご》という寵姫《ちょうき》もおありになるのですから、どんなにお気に入りましてもそのお二方並みにはなれ
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