て立てた人の袖口《そでぐち》の見えたのを、女王《にょおう》であろうと思うと胸が湧《わ》き上がるような音をたてた。困ったことであると思って中将はわざと外のほうをながめていた。源氏は鏡に向かいながら小声で夫人に言う、
「中将の朝の姿はきれいじゃありませんか、まだ小さいのだが洗練されても見えるように思うのは親だからかしら」
 鏡にある自分の顔はしかも最高の優越した美を持つものであると源氏は自信していた。身なりを整えるのに苦心をしたあとで、
「中宮にお目にかかる時はいつも晴れがましい気がする。なんらの見識を表へ出しておいでになるのでないが、前へ出る者は気がつかわれる。おおように女らしくて、そして高い批評眼が備わっているというようなかただ」
 こう言いながら源氏は御簾から出ようとしたが、中将が一方を見つめて源氏の来ることにも気のつかぬふうであるのを、鋭敏な神経を持つ源氏はそれをどう見たか引き返して来て夫人に、
「昨日《きのう》風の紛れに中将はあなたを見たのじゃないだろうか。戸があいていたでしょう」
 と言うと女王は顔を赤くして、
「そんなこと。渡殿《わたどの》のほうには人の足音がしませんでしたも
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