の」
 と言っていた。
「しかし、疑わしい」
 源氏はこう独言《ひとりごと》を言いながら中宮の御殿のほうへ歩いて行った。また供をして行った中将は、源氏が御簾《みす》の中へはいっている間を、渡殿の戸口の、女房たちの集まっているけはいのうかがわれる所へ行って、戯れを言ったりしながらも、新しい物思いのできた人は平生よりもめいったふうをしていた。
 そこからすぐに北へ通って明石《あかし》の君の町へ源氏は出たが、ここでははかばかしい家司《けいし》風の者は来ていないで、下仕えの女中などが乱れた草の庭へ出て花の始末などをしていた。童女が感じのいい姿をして夫人の愛している竜胆《りんどう》や朝顔がほかの葉の中に混じってしまったのを選《え》り出していたわっていた。物哀れな気持ちになっていて明石は十三|絃《げん》の琴を弾《ひ》きながら縁に近い所へ出ていたが、人払いの声がしたので、平常着《ふだんぎ》の上へ棹《さお》からおろした小袿《こうちぎ》を掛けて出迎えた。こんな急な場合にも敬意を表することを忘れない所にこの人の性格が見えるのである。座敷の端にしばらくすわって、風の見舞いだけを言って、そのまま冷淡に帰って行
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