いで済むのでございましょう。もう京へお帰りになりましたら」
と従者は言ったが、寺では聖人が、
「もう一晩静かに私に加持をおさせになってからお帰りになるのがよろしゅうございます」
と言った。だれも皆この説に賛成した。源氏も旅で寝ることははじめてなのでうれしくて、
「では帰りは明日に延ばそう」
こう言っていた。山の春の日はことに長くてつれづれでもあったから、夕方になって、この山が淡霞《うすがすみ》に包まれてしまった時刻に、午前にながめた小柴垣《こしばがき》の所へまで源氏は行って見た。ほかの従者は寺へ帰して惟光《これみつ》だけを供につれて、その山荘をのぞくとこの垣根のすぐ前になっている西向きの座敷に持仏《じぶつ》を置いてお勤めをする尼がいた。簾《すだれ》を少し上げて、その時に仏前へ花が供えられた。室の中央の柱に近くすわって、脇息《きょうそく》の上に経巻を置いて、病苦のあるふうでそれを読む尼はただの尼とは見えない。四十ぐらいで、色は非常に白くて上品に痩《や》せてはいるが頬《ほお》のあたりはふっくりとして、目つきの美しいのとともに、短く切り捨ててある髪の裾《すそ》のそろったのが、かえって長
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