ことを途々《みちみち》源氏は思った。馬をはかばかしく御して行けるふうでもなかったから、惟光が横に添って行った。加茂川堤に来てとうとう源氏は落馬したのである。失心したふうで、
「家の中でもないこんな所で自分は死ぬ運命なんだろう。二条の院まではとうてい行けない気がする」
 と言った。惟光の頭も混乱状態にならざるをえない。自分が確《しか》とした人間だったら、あんなことを源氏がお言いになっても、軽率にこんな案内はしなかったはずだと思うと悲しかった。川の水で手を洗って清水《きよみず》の観音を拝みながらも、どんな処置をとるべきだろうと煩悶《はんもん》した。源氏もしいて自身を励まして、心の中で御仏《みほとけ》を念じ、そして惟光たちの助けも借りて二条の院へ行き着いた。
 毎夜続いて不規則な時間の出入りを女房たちが、
「見苦しいことですね、近ごろは平生よりもよく微行《おしのび》をなさる中でも昨日《きのう》はたいへんお加減が悪いふうだったでしょう。そんなでおありになってまたお出かけになったりなさるのですから、困ったことですね」
 こんなふうに歎息《たんそく》をしていた。
 源氏自身が予言をしたとおりに、そ
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