たかということを、どうほかの人に話ができましょう。奥様をお亡《な》くししましたほかに、私はまた皆にどう言われるかということも悲しゅうございます」
こう言って右近は泣きやまない。
「私も奥様の煙といっしょにあの世へ参りとうございます」
「もっともだがしかし、人世とはこんなものだ。別れというものに悲しくないものはないのだ。どんなことがあっても寿命のある間には死ねないのだよ。気を静めて私を信頼してくれ」
と言う源氏が、また、
「しかしそういう私も、この悲しみでどうなってしまうかわからない」
と言うのであるから心細い。
「もう明け方に近いころだと思われます。早くお帰りにならなければいけません」
惟光《これみつ》がこう促すので、源氏は顧みばかりがされて、胸も悲しみにふさがらせたまま帰途についた。露の多い路《みち》に厚い朝霧が立っていて、このままこの世でない国へ行くような寂しさが味わわれた。某院の閨《ねや》にいたままのふうで夕顔が寝ていたこと、その夜上に掛けて寝た源氏自身の紅の単衣《ひとえ》にまだ巻かれていたこと、などを思って、全体あの人と自分はどんな前生の因縁があったのであろうと、こんな
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