来てくれたことを非常にありがたがっていた。尼も起き上がっていた。
「もう私は死んでもよいと見られる人間なんでございますが、少しこの世に未練を持っておりましたのはこうしてあなた様にお目にかかるということがあの世ではできませんからでございます。尼になりました功徳《くどく》で病気が楽になりまして、こうしてあなた様の御前へも出られたのですから、もうこれで阿弥陀《あみだ》様のお迎えも快くお待ちすることができるでしょう」
などと言って弱々しく泣いた。
「長い間|恢復《かいふく》しないあなたの病気を心配しているうちに、こんなふうに尼になってしまわれたから残念です。長生きをして私の出世する時を見てください。そのあとで死ねば九品蓮台《くぼんれんだい》の最上位にだって生まれることができるでしょう。この世に少しでも飽き足りない心を残すのはよくないということだから」
源氏は涙ぐんで言っていた。欠点のある人でも、乳母というような関係でその人を愛している者には、それが非常にりっぱな完全なものに見えるのであるから、まして養君《やしないぎみ》がこの世のだれよりもすぐれた源氏の君であっては、自身までも普通の者でない
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