その言葉どおりで、貧しげな小家がちのこの通りのあちら、こちら、あるものは倒れそうになった家の軒などにもこの花が咲いていた。
「気の毒な運命の花だね。一枝折ってこい」
と源氏が言うと、蔀風《しとみふう》の門のある中へはいって随身は花を折った。ちょっとしゃれた作りになっている横戸の口に、黄色の生絹《すずし》の袴《はかま》を長めにはいた愛らしい童女が出て来て随身を招いて、白い扇を色のつくほど薫物《たきもの》で燻《くゆ》らしたのを渡した。
「これへ載せておあげなさいまし。手で提《さ》げては不恰好《ぶかっこう》な花ですもの」
随身は、夕顔の花をちょうどこの時門をあけさせて出て来た惟光の手から源氏へ渡してもらった。
「鍵《かぎ》の置き所がわかりませんでして、たいへん失礼をいたしました。よいも悪いも見分けられない人の住む界わいではございましても、見苦しい通りにお待たせいたしまして」
と惟光は恐縮していた。車を引き入れさせて源氏の乳母《めのと》の家へ下《お》りた。惟光の兄の阿闍梨《あじゃり》、乳母の婿の三河守《みかわのかみ》、娘などが皆このごろはここに来ていて、こんなふうに源氏自身で見舞いに
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