ような誇りを覚えている彼女であったから、源氏からこんな言葉を聞いてはただうれし泣きをするばかりであった。息子《むすこ》や娘は母の態度を飽き足りない歯がゆいもののように思って、尼になっていながらこの世への未練をお見せするようなものである、俗縁のあった方に惜しんで泣いていただくのはともかくもだがというような意味を、肱《ひじ》を突いたり、目くばせをしたりして兄弟どうしで示し合っていた。源氏は乳母を憐《あわれ》んでいた。
「母や祖母を早く失《な》くした私のために、世話する役人などは多数にあっても、私の最も親しく思われた人はあなただったのだ。大人《おとな》になってからは少年時代のように、いつもいっしょにいることができず、思い立つ時にすぐに訪《たず》ねて来るようなこともできないのですが、今でもまだあなたと長く逢《あ》わないでいると心細い気がするほどなんだから、生死の別れというものがなければよいと昔の人が言ったようなことを私も思う」
しみじみと話して、袖《そで》で涙を拭《ふ》いている美しい源氏を見ては、この方の乳母でありえたわが母もよい前生《ぜんしょう》の縁を持った人に違いないという気がして、さっ
前へ
次へ
全66ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
紫式部 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング