めしい人であって、しかも忘れられない女になっていた。もう一人の女は他人と結婚をしても思いどおりに動かしうる女だと思っていたから、いろいろな噂を聞いても源氏は何とも思わなかった。秋になった。このごろの源氏はある発展を遂げた初恋のその続きの苦悶《くもん》の中にいて、自然左大臣家へ通うことも途絶えがちになって恨めしがられていた。六条の貴女《きじょ》との関係も、その恋を得る以前ほどの熱をまた持つことのできない悩みがあった。自分の態度によって女の名誉が傷つくことになってはならないと思うが、夢中になるほどその人の恋しかった心と今の心とは、多少|懸隔《へだたり》のあるものだった。六条の貴女はあまりにものを思い込む性質だった。源氏よりは八歳《やっつ》上の二十五であったから、不似合いな相手と恋に堕《お》ちて、すぐにまた愛されぬ物思いに沈む運命なのだろうかと、待ち明かしてしまう夜などには煩悶《はんもん》することが多かった。
霧の濃くおりた朝、帰りをそそのかされて、睡《ね》むそうなふうで歎息《たんそく》をしながら源氏が出て行くのを、貴女の女房の中将が格子《こうし》を一間だけ上げて、女主人《おんなあるじ》に
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