見送らせるために几帳《きちょう》を横へ引いてしまった。それで貴女は頭を上げて外をながめていた。いろいろに咲いた植え込みの花に心が引かれるようで、立ち止まりがちに源氏は歩いて行く。非常に美しい。廊のほうへ行くのに中将が供をして行った。この時節にふさわしい淡紫《うすむらさき》の薄物の裳《も》をきれいに結びつけた中将の腰つきが艶《えん》であった。源氏は振り返って曲がり角《かど》の高欄の所へしばらく中将を引き据《す》えた。なお主従の礼をくずさない態度も額髪《ひたいがみ》のかかりぎわのあざやかさもすぐれて優美な中将だった。
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「咲く花に移るてふ名はつつめども折らで過ぎうき今朝《けさ》の朝顔
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どうすればいい」
こう言って源氏は女の手を取った。物馴《ものな》れたふうで、すぐに、
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朝霧の晴れ間も待たぬけしきにて花に心をとめぬとぞ見る
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と言う。源氏の焦点をはずして主人の侍女としての挨拶をしたのである。美しい童侍《わらわざむらい》の恰好《かっこう》のよい姿をした子が、指貫《さしぬき》の袴《はかま
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