たるやを理解せず原形を破壊する位、むしろ当然であつたかも知れぬ。
 今後に残された問題は、合法的研究と、物的証左の収集によつて、神産巣日御祖命の手の俣から漏し御子――古事記――ともいはるゝ少名彦命時代のばうばくたる伝奇の上に、多少とも史実の光明を照射することである。大陸民族の渡来と信ぜらるゝ出雲民族の上に加へらるゝ史実的批判、その材料は、出雲の郷土よりも、却てこの大洲に恵まれてゐるとも見るべきなのである。

 伊予第一の長流肱川は丁度香魚狩り時季であつた。坂石といふあたりまで自動車を駆つて、そこから舟を下す。大洲まで約七八里。
 両岸重畳の山々高からねど、翠微水にひたつて、風爽やかにたもとを払ふ。奇岩怪石の眼を驚かすものなけれど、深潭清澄の水胸腔に透徹す。男性的雄偉は欠くも、女性的和暢の感だ。ところ/″\早瀬に立つ友釣りの翁から、獲物の香魚をせしめて、船頭の削つた青い竹ぐしで焼きあげる。浅酌低唱的半日の清遊だつた。
 一人の漁夫に喚びかけて、香魚の釣れ高をきくと、それが大洲署長さんであつたなどのカリカチユヤもあつた。一日吹き通した南風が舟を捨てる間際、沛然たる驟雨になつた。掉尾の爽快さ
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