南予枇杷行
河東碧梧桐

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)犬寄《いぬよせ》峠

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)名物|唐川《からかわ》枇杷

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)鼻柱[#「鼻柱」は底本では「鼻桂」]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)しみ/″\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 上り約三里もある犬寄《いぬよせ》峠を越えると、もう鼻柱[#「鼻柱」は底本では「鼻桂」]を摩する山びやうぶの中だ。町の名も中山。
 一つの山にさきさかつてゐる栗の花、成程、秋になるとよくこゝから栗を送つてくる。疾走する車の中でも、ある腋臭を思はせる鼻腔をそゝる臭ひがする。栗の花のにほひは、山中にあつてのジャズ臭、性慾象徴臭、などであらう。
 南伊予には、武将の名を冠したお寺が多い。長曽我部氏に屠られた諸城の亡命者が山中にかくれて寺号の下に安息の地を得たのだともいふ。
 中山にも「盛景寺」がある。勤王の武将河野盛景の創建、今は臨済宗である。現住僧は私の回縁者である。玉井町長を
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