さい》は、自分の作品を窯《かま》から取出す、火のための出来損じがもとより出来る、それは一々取っては抛《な》げ、取っては抛げ、大地へたたきつけて微塵《みじん》にしたと聞いています。いい心持の話じゃありませんか。」
「ムム、それで六兵衛《ろくべえ》一家《いっか》の基《もとい》を成したというが、あるいはマアお話じゃ無いかネ。」
「ところが御前で敲《たた》き毀《こわ》すようなものを作ってはなりませぬ、是非とも気の済《す》むようなものを作ってご覧をいただかねばなりませぬ。それが果して成るか成らぬか。そこに脊骨《せぼね》が絞《しぼ》られるような悩《なや》みが……」
「ト云うと天覧を仰《あお》ぐということが無理なことになるが、今更|野暮《やぼ》を云っても何の役にも立たぬ。悩むがよいサ。苦むがよいサ。」
と断崖《だんがい》から取って投げたように言って、中村は豪然《ごうぜん》として威張った。
若崎は勃然《むっ》として、
「知れたことサ。」
と見かえした。身体中に神経がピンと緊《きび》しく張ったでもあるように思われて、円味《まるみ》のあるキンキン声はその音ででも有るかと聞えた。しかしまたたちまちグッタリ
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