断《き》れるおそれなどは少しも無くて済む。」
 好意からの助言には相違無いが、若崎は侮辱《ぶじょく》されたように感じでもしたか、
「いやですナア蟾蜍は。やっぱり鵞鳥で苦《くるし》みましょうヨ。」
と、悲しげにまた何だか怨《うら》みっぽく答えた。
「そんなに鵞鳥に貼《つ》くこともありますまい。」
「イヤ、君だってそうでしょうが、題は自然に出て来るもので、それと定《き》まったら、もうわたしには棄《す》てきれませぬ。逃《に》げ道のために蝦蟇《がま》の術をつかうなんていう、忍術《にんじゅつ》のようなことは私には出来ません。進み進んで、出来る、出来ない、成就《じょうじゅ》不成就の紙|一重《ひとえ》の危《あやう》い境《さかい》に臨んで奮《ふる》うのが芸術では無いでしょうか。」
「そりゃそういえば確にそうだが、忍術だって入※[#小書き片仮名ト、1−6−81]用のものだから世に伊賀流《いがりゅう》も甲賀流《こうがりゅう》もある。世間には忍術使いの美術家もなかなか多いよ。ハハハ。」
「御前製作ということでさえ無ければ、少しも屈托《くったく》は有りませんがナア。同じ火の芸術の人で陶工《とうこう》の愚斎《ぐ
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