皆そうであろうが、明らかに火の芸術は腕ばかりではどうにもならぬ。そこへ天覧という大きなことがかぶさって来ては! そこへまた予感という妖《あや》しいことが湧上《わきあが》っては! 鳴呼《ああ》、若崎が苦しむのも無理は無い。と思った。が、この男はまだ芸術家になりきらぬ中、香具師《やし》一流の望《のぞみ》に任《まか》せて、安直に素張《すば》らしい大仏を造ったことがある。それも製作技術の智慧からではあるが、丸太《まるた》を組み、割竹《わりだけ》を編み、紙を貼《は》り、色を傅《つ》けて、インチキ大仏のその眼の孔《あな》から安房《あわ》上総《かずさ》まで見ゆるほどなのを江戸《えど》に作ったことがある。そういう質《たち》の智慧のある人であるから、今ここにおいて行詰まるような意気地無《いくじな》しではなかった。先輩として助言した。
「君、なるほど火の芸術は厄介《やっかい》だ。しかしここに道はある。どうです、鵞鳥だからむずかしいので。蟾蜍《ひきがえる》と改題してはどんなものでしょう。昔《むかし》から蟾蜍の鋳物は古い水滴《すいてき》などにもある。醜《みにく》いものだが、雅はあるものだ。あれなら熔金《ゆ》の
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