奇《れいき》だ。その火のはたらきをくぐって僕等の芸術は出来る。それを何ということだ。鋳金《ちゅうきん》の工作|過程《かてい》を実地にご覧に入れ、そして最後には出来上ったものを美術として美術学校から献上《けんじょう》するという。そううまく行くべきものだか、どうだか。むかしも今も席画というがある、席画に美術を求めることの無理で愚《ぐ》なのは今は誰しも認《みと》めている。席上鋳金に美術を求める、そんな分らない校長ではないと思っていたが、校長には校長の考えもあろうし、鋳金はたとい蝋型《ろうがた》にせよ純粋美術とは云い難いが、また校長には把掖《はえき》誘導《ゆうどう》啓発《けいはつ》抜擢《ばってき》、あらゆる恩《おん》を受けているので、実はイヤだナアと思ったけれども枉《ま》げて従った。この心持がせめて君には分ってもらいたいのだが……」
と、中頃は余り言いすごしたと思ったので、末にはその意を濁《にご》してしまった。言ったとて今更どうなることでも無いので、図に乗って少し饒舌《しゃべ》り過ぎたと思ったのは疑いも無い。
中村は少し凹《へこ》まされたかども有るが、この人は、「肉の多きや刃《やいば》その骨
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