に及《およ》ばず」という身体《からだ》つきの徳《とく》を持っている、これもなかなかの功《こう》を経ているものなので、若崎の言葉の中心にはかまわずに、やはり先輩ぶりの態度を崩《くず》さず、
「それで家《うち》へ帰って不機嫌だったというのなら、君はまだ若過ぎるよ。議論みたようなことは、あれは新聞屋や雑誌屋《ざっしや》の手合にまかせておくサ。僕等は直接に芸術の中に居るのだから、塀《へい》の落書《らくがき》などに身を入れて見ることは無いよ。なるほど火の芸術と君は云うが、最後の鋳《い》るという一段だけが君の方は多いネ。ご覧に入れるには割が悪い。」
と打解けて同情し、場合によったら助言でも助勢でもしてやろうという様子だ。
「イヤ割が悪いどころでは無い、熔金《ゆ》を入れるその時に勝負が着くのだからネ。機嫌が甚《ひど》く悪いように見えたのは、どういうものだか、帰りの道で、吾家《うち》が見えるようになってフト気中《きあた》りがして、何だか今度の御前製作は見事に失敗するように思われ出して、それで一倍|鬱屈《うっくつ》したので。」
「気アタリという奴《やつ》は厭なものだネ。わたしも若い時分には時々そういうお
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