や》だった。ウソにいじりまわされている芸術ほどケチなものは無いと思っているからである。で、思わず知らず鼻のさきで笑うような調子に、
「腕なんぞで、君、何が出来るかネ。僕等《ぼくら》よりズット偉《えら》い人だって、腕なんかがアテになるものじゃあるまい。」
と云った。何かが破裂《はれつ》したのだ。客はギクリとしたようだったが、さすがは老骨《ろうこつ》だ。禅宗《ぜんしゅう》の味噌《みそ》すり坊主《ぼうず》のいわゆる脊梁骨《せきりょうこつ》を提起《ていき》した姿勢《しせい》になって、
「そんな無茶なことを云い出しては人迷《ひとまよ》わせだヨ。腕で無くって何で芸術が出来る。まして君なぞ既《すで》にいい腕になっているのだもの、いよいよ腕を磨《みが》くべしだネ。」
戦闘《せんとう》が開始されたようなものだ。
「イヤ腕を磨くべきはもとよりだが、腕で芸術が出来るものではない。芸術は出来るもので、こしらえるものでは無さそうだ。君の方ではこしらえとおせるかも知れないが、僕の方や窯業《ようぎょう》の方の、火の芸術にたずさわるものは、おのずと、芸術は出来るものであると信じがちだ。火のはたらきは神秘《しんぴ》霊
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