る古い藤の棚、といってさまで大きくもないが、それに店の半分は掩《おお》われているので人※[#二の字点、1−2−22]にそう呼びならされている茶店《ちゃや》である。路行く人や農夫や行商や、野菜の荷を東京へ出した帰りの空車《からぐるま》を挽《ひ》いた男なんどのちょっと休む家《うち》で、いわゆる三文菓子《さんもんがし》が少しに、余り渋くもない茶よりほか何を提供するのでもないが、重宝になっている家《うち》なのだ。自分も釣の往復《ゆきかえ》りに立寄って顔馴染《かおなじみ》になっていたので、岡釣《おかづり》に用いる竿の継竿《つぎざお》とはいえ三|間半《げんはん》もあって長いのをその度※[#二の字点、1−2−22]《たびたび》に携えて往復するのは好ましくないから、此家《ここ》へ頼んで預けて置くことにしてあった。で、今|行掛《ゆきがけ》に例の如く此家《ここ》へ寄って、
 やあ、今日は、また来ました。
と挨拶して、裏へ廻って自《みずか》ら竿を取出して※[#「てへん+黨」、第3水準1−85−7]網《たま》と共に引担《ひっかつ》いで来ると、茶店《ちゃや》の婆さんは、
 おたのしみなさいまし。好いのが出ました
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