だよ、そうしておくれ。そうしておくれなら、わたしが釣った魚《さかな》を悉皆《すっかり》でもいくらでもお前の宜いだけお前にあげる。そしてお前がお母《っか》さんに機嫌を悪くされないように。そうしたらわたしは大へん嬉しいのだから。
自分は自分の思うようにすることが出来た。少年は餌の土団子《つちだんご》をこしらえてくれた。自分はそれを投げた。少年は自分の釣った魚《うお》の中からセイゴ二|尾《ひき》を取って、自分に対して言葉は少いが感謝の意は深く謝した。
二人とも土堤へ上《あが》った。少年は土堤を川上の方へ、自分は土堤の西の方へと下りる訳だ。別れの言葉が交された時には、日は既に収まって、夕風が袂《たもと》凉しく吹いて来た。少年は川上へ堤上を辿《たど》って行った。暮色は漸《ようや》く逼《せま》った。肩にした竿、手にした畚《ふご》、筒袖《つつそで》の裾短《すそみじ》かな頬冠り姿の小さな影は、長い土堤の小草の路のあなたに段※[#二の字点、1−2−22]と小さくなって行く※[#「足へん+禹」、第3水準1−92−38]※[#二の字点、1−2−22]然《くくぜん》たるその様。自分は少時《しばらく》立って
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