は餌で釣るのだからネ。
少年はまた二匹ばかり着け足した。
今まで何処《どこ》で釣っていたのだい、此処《ここ》は浮子釣りなんぞでは巧《うま》く行かない場だよ。
今までは奥戸の池で釣ってたよ、昨日《きのう》も一昨日《おととい》も。
釣れたかい。
ああ、鮒《ふな》が七、八匹。
奥戸というのは対岸で、なるほどそこには浮子釣に適すべき池があることを自分も知っていた。しかし今時分の鮒を釣っても、それが釣という遊びのためでなくって何の意味を為そう。桜の花頃から菊の花過ぎまでの間の鮒は全く仕方のないものである。自分には合点が行かなかったから、
遊びじゃないように先刻《さっき》お言いだったが、今の鮒なんか何にもなりはしない、やっぱり遊びじゃないか。
というと、少年は急に悲しそうな顔をして気色《けしき》を曇らせたが、
でも僕には鮒のほかのものは釣れそうに思えなかったからネ。お相撲《すもう》さんの舟に無銭《ただ》で乗せてもらって往還《ゆきかえ》りして彼処《あすこ》で釣ったのだよ。
無銭《ただ》で乗せてもらっての一語は偶然にその実際を語ったのだろうが、自分の耳に立って聞えた。お相撲さんという
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