団《たどん》のようにして、そして彼処《あすこ》を狙って二つも三つも抛《ほう》り込んでは帰るのだよ。それは水の流れの上[#(ゲ)]下[#(ゲ)]に連れて、その土が解け、餌が出る、それを魚《さかな》が覚えて、そして自然に魚を其処《そこ》へ廻って来させようというためなのだよ。だからこういう事をお前に知らせるのは私に取って得《とく》なことではないけれども、わたしがそれだけの事を彼処《あすこ》に対してしてあるのだから、それが解ったらわたしに其処《そこ》を譲ってくれても宜《い》いだろう。お前の竿では其処《そこ》に坐っていても別に甲斐があるものでもないし、かえって二間ばかり左へ寄って、それ其処《そこ》に小さい渦《うず》が出来ているあの渦の下端《したば》を釣った方が得がありそうに思うよ。どうだネ、兄さん、わたしはお前を欺《だま》すのでも強いるのでもないのだよ。たってお前が其処《そこ》を退《ど》かないというのなら、それも仕方はないがネ、そんな意地悪にしなくても好いだろう、根が遊びだからネ。
と言って聴かせている中《うち》に、少年の眼の中《うち》は段※[#二の字点、1−2−22]に平和になって来た。しかし
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