を去ろうと云い出して了った。女は流石に泣いたり笑ったりしたが、何様も仕方無く、遂に家を出て終った。当時の離別の形式などは今これを詳知する材料に乏しいが、いずれ美しく笑って別れるということは有ろう筈無く、男の瞋眼《しんがん》、女の怨気《えんき》、あさましく、忌わしい限りを尽して別れたことであったろう。それで無くては別れられる訳も無いのだから。特《こと》に女に取っては、一生を全く墨塗りにされるのだから、定基の妻は恨みもしたろう、悪《にく》みもしたろう、人でも無いもののように今までの夫を蔑視《べっし》もしたろう、行末|悪《あし》かれ、地獄に墜《お》ちよ、畜生になれ、修羅になって苦め、餓鬼になって悩め、と呪《のろ》いもしたろう。そして自分の将来、何の光も無く、色も無く、香も無い、ただ真黒な冷い闇のみの世界を望み視《み》ては、愴然《そうぜん》栗然《りつぜん》として堪《こら》えきれぬ思いをしたことであったろう。
およそ人間世界に夫婦別れをする女ほど同情に値するものはあるまい。それは決して純善から生ずるものでは無かろうから、同情に値しない個処が存在することを疑わない。たとえば定基の妻にしても妬忌《
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