こ》だと争ったが、畢竟《ひっきょう》これは母が其子を手離したくない母性愛の本然《ほんねん》から然様《そう》云ったのだと解せられもするが、又吾が手を離れた女の其子を強いても引取ろうとするのはよくよく正しい父性愛の強さからだとも解せられるのである。であるから男女の情理から判断すれば、兼盛の方に分があって、女には分が乏しい。まして生長し上った赤染右衛門は歌人であった兼盛の血を享けたと見えて、才学|凡《つね》ならぬ優秀なものとなり、赤染時用という検非違使から大隅守になっただけで別に才学の噂も無い平凡官吏の胤とも思われない。であるから、当時を去ること遠からぬ清輔朝臣抄などにも、実《まこと》には兼盛の女《むすめ》云々《うんぬん》と出ているのである。よくよく事情を察するに、当時は恋愛至上主義の行われていた世で、女は愛情の命ずるがままに行動して、それで自から欺かぬ、よい事と許されていた惰弱《だじゃく》時代であったから、右衛門の母は兼盛と、手を繋《つな》いで居た間に懐胎したが、何様いう因縁かで兼盛と別れて時用の許《もと》へ帰したのである。兼盛は卅六歌仙の一人であり、是忠親王の曾孫《そうそん》であり、父の
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