き》として、やらん、からん、なん、かん、はべる、すべるで、女性《にょしょう》尊重仕るべく、一切異議|申間敷《もおすまじく》候と抑えられていた代《よ》であったから、定基の妻は中々納まっては居なかった、瞋恚《しんい》の火《ほ》むらで焼いたことであったろう。いや、むずかしくも亦おそろしく焼き立てたことであったろう。ところが、火の傍へ寄れば少くとも髭《ひげ》は焼かれるから、誰しも御免|蒙《こうむ》って疎み遠ざかる。此の方を疎みて遠ざかれば、余分に彼方を親み睦《むつ》ぶようになる。彼方に親しみ、此方に遠ざかれば、此方は愈々《いよいよ》火の手をあげる。愈々逃げる、愈々燃えさかる。不動尊の背負《しょ》って居らるる伽婁羅炎《かるらえん》という火は魔が逃げれば逃げるだけ其|火※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《ほのお》が伸びて何処までも追駈けて降伏《ごうぶく》させるというが、嫉妬《しっと》の火もまた追駈ける性質があるから、鬚髭《ひげ》ぐらい焼かれる間はましもだが、背中へ追いかかって来て、身柱大椎《ちりけだいつい》へ火を吹付けるようにやられては、灸《きゅう》を据えられる訳では無いし、向直っ
前へ 次へ
全120ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング